祖父

父方の祖父は小さい頃亡くなってしまったのでよく覚えていない
よく俺を抱えてパチンコに行っていたとかいう話を聞くぐらいしか、思い出もない


俺の中では母方の祖父だけがじーちゃんだった
物心ついた時にはじーちゃんはもうゴルフ場で住み込みの仕事をしていた
球拾いの仕方、店の閉め方、お客さんとの接し方、魚釣り、もぐら取り、蝉の羽化、ゴルフ場の主の蛙のこと、ドッジボール、キャッチボール、将棋、プラモ、全部じーちゃんが教えてくれた
普段は優しいけど、悪戯したり適当な仕事をした時はすげー怒られた
いつも将棋でぼろくそに負けてたんだけど、一度だけ勝ったことがある
そしたらじーちゃん、いつも怒る時と同じように、すげー下唇を噛んでた
あれは怖かった


三人兄弟の末っ子が、ぬくぬくと私立の中学高校大学に行けるほどうちは裕福な家庭ではなかった
酒に酔うと親父は口癖のように言う
「お前がちゃんと卒業できたのは、じーちゃんのおかげなんだぞ」
働いて、稼いで、初めてわかる


じーちゃん。



「悪い、土産とか買ってきても食えるかどうかわかんなかったから、何も買ってこんかったわ」
「そんなのは、いいんだよ」
苦しそうに息継ぎをしながら言う
「ものじゃなくて、現金で、十分だよ」


ああ、じーちゃん。


「早く治しなよ。したら現金でも煎餅でもかりんとうでも何でも持ってきたるよ」
「その、お煎餅は、うちのちゃぶ台の、上にあるやつだろ?」


ばかだなぁ、本当に。


今日、病状がはっきりしたらしい。
そろそろだって。



じーちゃん、もう一回将棋しようぜ
あんた今、あんまり思い残すことなくて退屈だろ?
俺が思いっきり負かしてやっからさ、そしたら悔しくって悔しくって、向こう行ってもそんなに暇じゃねーだろ?
ほいでさ、お盆にでももう一局指そうよ、なぁじーちゃん。


だから、せめて明日まで