人は誰でも孤独のうちに死ぬ覚悟で生きねばならない
議論の余地はありません
単純な事実だ
でも人はなかなか認めようとしません
伯父さんは人差し指の側頭部に突き立てた。
そいつの頭がおかしい

中略

人間が孤独な存在であることを認めると、どんな感情が生まれるか。それは淋しさに通じる感情なのか?
明らかに否定文だった。
ふつうは淋しいと感じるんじゃないでしょうか。だから人は人とつながろうとする。
ぼくは数え上げた。
飲む、おしゃべりをする、セックスをする、裏切る、裏切られる、愛する、憎む、傷つける、懺悔する。なにかを必死で隠そうとする。
旗をかかげ、隊列を組んで、行軍する
伯父さんは行軍の果てが地獄のシベリア抑留であるかのように言った。
うっとうしくなっちゃいますね
伯父さんは微笑んだ。
だが、人間関係をぶんなげてしまうのはむずかしい
むずかしいと思います
暴力的な行為が必要になる
切断、とぼくは言った。
切断だ、と伯父さんはいった。
愛の名で語られるもののいっさいを、問答無用で切断するんだ。結果として君を傷つけなければならなかった。それだけがあの女の心残りだろう。だが切断した。人間の孤独をまともに見据えることで、その勇気を得た。そして見事に姿を消した。
自殺したんですよ
ぼくは言った。
そんなヤワな女じゃない。わたしを惑わしたんだ

打海文三 ロビンソンの家より