宿命のライバル



「あ、勝ちました」


2ちゃんねるの将棋サロンでは、1日1回は見られるこの書き込み。
これは森内俊之永世名人が投了する時の、「あ、負けました」を
パロったネタである。


本記事で紹介するYoutubeで、森内が投了する時に
「あ、負けました」
という。
僕は何度この動画を見ても、このシーンで泣いてしまう。


将棋界最高峰のタイトル、名人戦
たとえ戦う場所がどこであろうが変わらない。
将棋の世界では、負けた者は必ず自ら「負け」を認めなければならない。
デパートの予選であろうが、名人戦であろうが変わらない。


今日、第69期の名人戦第七局二日目が行われた。
森内三連勝から羽生の三連勝でタイに持ち込み、フルセット。


序盤から中盤にかけては先手森内が優勢の認識が多かったが、
中盤から後半にかけて羽生が優勢という意見が徐々に増え始める。
難解な終盤。


ソフトに解析させても、他のプロ棋士に解説させても、どちらが
優勢なのか結論は出ない。
一手指すごとに局面は変わる。
どちらが勝って、どちらが負けるのか。


「あ、それは」


100手を過ぎたあたり、態勢を決定づけてしまう一打。



「これは、もう、だめですね」



終局ムードの会場。



「もうこれは決まってしまいましたね。もしも執念があるとしたらこの手ですが」



その、執念の一打が放たれる。
会場から洩れる、感嘆の声。


動画の中で、羽生は言う。


「それは、もう、お互い勝負の世界で生きてますから」


ああ、ああ、これほど素晴らしい戦いを、リアルタイムで
見られる幸福を。
将棋と出会えてよかった。


羽生名人、森内挑戦者、この一年間本当にお疲れ様でした。
来年も楽しみにしております。